第一章

ギィ……ばたん。ぱたぱた。がたん!ぱたぱた、ぱたぱた……。

 扉の奥から忙しなく足音が聞こえる。オレはそれをただ黙って聞いていた。時間にして二十分程度だろうか。ふと、下の大広間に目をやると、すでにグレイグが準備を終えてこちらを見上げている。もうそろそろ時間だぞー、と声をあげてそのまま城の外に向かっていった。
 ―――そうだな、確かにもうそろそろ出発の時間だ。
 そう思いながら目の前の扉を睨みつけるが、一向に出てくる気配がない。それどころかさっきよりも物音が騒がしくなっている。何をしているんだコイツは、と思い辛抱ならなくなってオレは力いっぱい叫んだ。

「おい!聞こえているか!!」

 すると、どうにも間抜けな声で「聞こえてるわよ~」と随分のん気な返事が返ってきた。そろそろ皆で街の外へ出るというのに、それにすら気づいていないのではないだろうかこの鈍間は。流石に間に合わないとなると、グレイグにも悪い。そう思い、一瞬躊躇いはしたが彼女の私室の扉を勢いよく開けた。バンッ、とかなり大きな音が響いたが、あろうことか彼女はそれに気付かずクローゼットの中を覗き込み、何かぶつぶつと独り言を話しているのが目に付く。部屋の中はあれだけ激しい音がしていたにも関わらず綺麗で、一体何がそこまで音を発していたのか―――とふとベッドの上を見ると洋服が散乱していた。全くコイツは。

……」

「―――?あら、ホメロスいつの間に。ふふ、ごめんなさい気づかなくって……」

「そんな事はわかっている!貴様いつまで荷造りに時間を費やすつもりだ!」

 彼女はぽかんとした顔でこちらを見返した。刹那、その口元をわなわなと震えさせ「も、もうそんな時間なの……!?」と慌ててクローゼットの中からあれやこれやと物を取り出し始める。ある程度用意は出来ていたのか、服が散乱していたベッドの横に大きめのサックが二個置いてあることに気づいた。

「そうだ、もうそんな時間だ……。おい、あのベッド上のドレスは持っていくものか?」

「そうよ!あぁ本当にごめんなさい!私ったら、出国の時間を勘違いしていたわ……」

 はぁ、とため息をつきながら、彼女が散らかした服を丁寧に畳みつつサックの中へと入れる。元々位の高い貴族出身なのだから私服もそれなりに立派なのだろうと思っていたが、レースをあしらったドレスや城に来る貴婦人が纏っているような華々しいものはなく、絹のローブやシンプルな造りのドレスが殆どだった。年頃なのだからもう少しまともな物を着ればいいのに……とは思ったが、別段服装を指摘するほどの関係でもない上に、男のオレが女性にそういった言葉をかけるのは憚られる。ここは黙っておこう。
 そうこうしている間に彼女も何とか時間内に準備を終わらせ、急いで部屋を出る。そのまま大広間へ向かうと、グレイグが不安そうな面持ちでこちらに駆けてくるのが見えた。

「そろそろ時間だぞ、どうしたんだ。中々来ないから様子を見てこいと言われて戻ってきたが……」

「ふんっ、どうもこうもない。こいつに聞いてみろ」

「グレイグ、ごめんなさいね……私、どうやら時間を間違えていたみたいで……」

 肩を落としながらは言う。オレとグレイグは目を合わせて互いに苦笑した。昔から彼女はどうにもマイペースで時間にルーズであることが多い。いつもは軽く流すグレイグも、今回ばかりは顔を見合わせた後に「しっかりしないと駄目だぞ」と苦言を呈した。

 その後、三人で城下町を出て、デルカコスタ地方にある唯一の船着き場に向かった。城から船着き場までは距離もあるため、徒歩では厳しいものがあり、馬車を使用する。キャリッジと呼ばれるその馬車は、基本的に裕福な階層の、社会的威厳を持つ貴族にのみ与えられるものだ。一介の騎士と使用人が乗るものにしては少し豪華に感じたが、少々長旅になるからと我が王が気を利かせてくれたのだろう。全く、王には頭が上がらない。部下であるオレ達への心優しい気遣いは、親を亡くしたオレにとっては親の愛のように感じられた。
 グレイグ、、オレの順番で馬車に乗ると、それを確認した従者が、ゆっくりと手綱をひいた。手綱の動きに合わせ、二頭の白馬が動き出す。段々と速度を上げ、心地よい風が各々の頬を撫でて去っていく。ふとの方に目をやると、デルカコスタ地方の壮大な景色に目を輝かせていた。オレとグレイグは鍛錬で外に出ることもあったが、はというとメイドという身分の為、殆ど外に出る機会がない。その為か、今回の留学の話が出た時はたいそう喜んでいた。 そう、留学―――。オレ達三人は此度、それぞれソルティコ、クレイモランへ留学する事になった。グレイグは剣術を学びに騎士の街と名高いソルティコへ、オレとは各々学術と医療の勉学に励むため、五大国一聡明で知識力のある王が治める魔法都市、クレイモランに行くことを王に命じられたのだ。騎士の身分であるオレとグレイグならまだしも、何故メイドであるが留学することになったかというと、本人曰く「メイドとしてだけではなく、医療を通じてデルカダールに貢献したい」との事だった。確かに我がデルカダールには回復呪文や医療に精通する者はそう多くない。一人でも多く医療従事者を増やしたいと、我が王も仰っていた。元々には、性格も相まって、そのような素質があったらしく、オレたちが鍛錬で怪我をした日には回復呪文を使用して傷を治してもらうこともあった。彼女が医療従事者としても動けるようになれば、それに越したことはない。……何かしらドジをやらかしそうだという心配はあるが。

「……楽しみねえ、ソルティコにクレイモラン。ふふ、帰ってくる頃には、私たちどうなっているのかしら」

 彼女は遠くの海を眺めながら呟いた。ふと気落ちしたようにも見えたが、一瞬のことでまたすぐにいつも通りの笑みを浮かべながら彼女は振り向く。

「―――不安か」

 そう問えば、少し目を丸くして「あら、バレた?」と眉尻を下げる。当たり前だ、このオレに隠し事なんてできると思うな、と返すと、ふふ、と声を漏らしながら彼女はぽつりとその不安を口にした。

「不安、というか。そうねえ―――言うなれば寂しいのかも。故郷よりも住み慣れたデルカダールの地を離れて……グレイグはソルティコに行ってしまうし」

 オレは彼女の話を黙って聞いた。グレイグは彼女につられたのか同じように不安そうな顔で話を聞く。

「ふふ、らしくないわね。案外行ってしまえばすぐなのかもしれないけれど、やっぱり今までの生活と離れるのは少し寂しい。それに、本当に立派になって帰ってこれるのか、とか考えてしまって……」

「―――そんな事はないさ、大丈夫だ。努力は人を裏切らない!やれば結果はついてくるはず」

 グレイグは、不安そうな顔をしながらもにこやかに笑って彼女を励ました。その言葉はグレイグ自身にも言い聞かせているように思える。根本的な解決法も出さずに大丈夫、だなんて何処から湧いてくるんだその自信は、なんて思いもしたが彼女は優しい笑みを浮かべ「ありがとう」とグレイグに一言告げた。その後は特に落ち込んだ顔を見せず、二人とも各々が赴く先でやりたいことや気になることを和気あいあいと話していた。全く、一瞬落ち込んだと思いきやこれだ。この二人のテンションにはついていけないな、と内心呆れる。
 とグレイグが談笑する一方でオレは彼女の言う"不安"について考えていた。「本当に立派になって帰ってこれるのか」の部分だ。オレたちは遊びに行くわけではない。各々騎士として、メイドとして今の実力をさらに高め、デルカダールを守っていく為に留学するのだ。グレイグは努力は裏切らないと言っていたが、そうではないことをオレは知っている。
 幼少期―――、がこの城にくる以前のことだ。その頃、オレは「神童」なんて呼ばれていて鍛錬でも勉強でも、同年代や少し上の騎士見習いたちよりだいぶ秀でていた。グレイグはよく鍛錬の相手になって、そのたびに軽く打ち負かしていたものだ。だが、今ではどうだ。グレイグは日々の鍛錬でどんどん力をつけ、オレはその力の前では以前のように上手く立ち回ることができない。グレイグの馬鹿力は簡単にオレの剣を押し切り、鍔迫り合いをすると必ずオレが後方に吹っ飛ぶようになってしまった。鍛錬をサボっていた訳ではない。むしろ以前よりも時間をかけているが、それでもあと一歩及ばないのだ。……努力は、簡単に人を裏切るもの。努力とは、万能ではない。最初からどうにもならないことだってある。オレがグレイグの力の前ではどうにもできないように。
 そんなことを考えているといつの間にかがオレの顔を覗いており、それが目と鼻の先にあったのだから思わず声を上げた。

「う……っわ!な、何をしている!?」

「いえ、何だか珍しくホメロスが落ち込んでいるみたいだったから……。もしかして、私が不安を煽ってしまったのかなって」

 もしそうだったらごめんなさいね、と彼女は困り顔で謝る。そもそも不安を抱いていた訳ではないが、彼女の一言で余計な事を考えさせられる結果にはなった為、あながち間違いでもない。そう思ったが、別段謝罪が欲しくなるほどのものではないので「気にするな」と軽く流しておく。すると彼女はすっかり安心したようで、「良かった」と呟き、またグレイグの方へ顔を向けた。

 そうしているうちに、デルカコスタ地方の船着き場へとたどり着いたオレたちは、あとから付いてきた、オレたちを乗せたきた従者とはまた別のデルカダール兵士と共に船に乗り込んだ。さすがデルカダール所有の船、その大きさは本で見た他国のどんな船よりも大きく立派で、三人とも開いた口が塞がらない。ガレオンと呼ばれるその船は、大型の貿易船で見た目の派手さが特徴だと本に表記されていた。なるほど、確かに何十メートルもありそうな大きなマストが三本、帆もこれでもかという程に張って、そこにはデルカダールの紋章である双頭の鷲があしらわれている。

「すっ……げぇ……!お、おい、俺たちこれに乗って行くのかホメロス!?」

「あ、あぁ……。いや、本当に凄いな……」

「まあ……!こんなに素晴らしい船、おとぎ話の中でしか見たことがありませんわ!ふふ、素敵!!」

 呆けていると、先輩兵士から早く乗れと催促を受けたので、急いで船に乗り込む。見た目も派手で豪華だが、船内も負けず劣らず立派だ。
 グレイグ、がオレに続いて船に乗ったところで先輩から船室に案内され、一旦とは別れた。オレとグレイグは纏めて同じ部屋に連れていかれた。船室にはベッドが二つにテーブルと椅子が置いてあるのみで、外見と船内の豪勢さとは裏腹に随分と質素な印象を受ける。灯りも窓から差し込む光のみで、暗くなったらこれで補えとでも言うかのようにテーブルの上にランタンがぽつんと置かれているだけだった。

「うわぁ、随分簡素な部屋だな……。豪華なのは外側だけか~」

「ベッドとテーブルさえあれば船旅なんてどうにでもなるだろ。それよりもグレイグ、お前……夜眠れないからといってオレのベッドに潜り込んでくるのはなしだぞ」

「え、どうしたんだよ急に」

 どうもこうもない。城の大きなベッドと違って船の中にあるベッドに二人で寝るのはどう考えたって厳しいということが理解できないのかこいつは。それにこの様子では、恐らくこの部屋が夜には月明かりだけが頼りになる程の暗闇になるとは全く気付いていないのだろう。のん気な奴だ、誰よりも暗闇が怖い癖に。そういった趣旨をグレイグに伝えると、瞬時に表情に曇りが出た。

「ほ、ホメロス……。そういう嘘はよくないと思うぞ」

「嘘などではない。窓際は譲ってやるからそれで我慢しろ」

 窓際ならば幾分か明るいだろうと思ったが、それでもグレイグは泣きそうな目でこちらを見てくる。齢も、もう十を越したというのに未だに暗闇に慣れぬとは呆れる。暗闇を怖がる事情が事情ではあるものの、あと四年もすれば成人となるのにこの体たらくでは、いくらオレより多少力が強くともまだまだ一人前の騎士にはなれないだろう。早く二人で一人前の騎士となり、我が国デルカダールを共に守っていくためにはどうにかして暗闇を克服してもらわねばなるまい。オレも、グレイグに負けないよう鍛錬を続けつつ、たくさん知識を身につけねば。努力が足りないなら、もっと数をこなせばいい。積み重ねは無駄にはならないのだから。今はそう信じることにしよう。
 グレイグはそんなオレの気など知らず、荷解きをしながら夜になるのが怖い、とかなんとか未だに泣き言を零している。その後ろ姿を睨みつけていると、不意に扉が開いた。

「ホメロス、グレイグ、もう荷解きは終わった?」

 ひょい、とが顔をのぞかせる。

。お前はもう終わったのか?」

「えぇ!部屋自体そこまで広くないし、出すものもあまりなかったから。いいわね、二人部屋。私は一人部屋だから、何だか少しだけ寂しいわ」

 そう言って彼女は眉を下げた。
 グレイグは彼女を見かけた途端駆け寄り、こちらを指さして「聞いてくれ、ホメロスが意地悪を言ってくる!」と叫ぶ。オレは若干腹が立ち、グレイグを睨みつける。別に意地悪をしたくてああいった訳ではないのに、何故そうも鬼を見るような目でオレを見るのか。は何が何だかわからず、オレとグレイグを交互に見ては戸惑っている。それが普通の反応だろう。オレは軽く息を吐いて二人のそばに近寄った。

「おいグレイグ、そういう嘘はよくないと思うぞ」

「それは俺の台詞だろ!?」

「えぇと、何があったのかしら?ホメロス、教えてくれる?」

「何もない、オレはただ"船室は夜になると暗くなるから気を付けるように"と事実を言ったまでだ」

 それを聞いたは「あら、ふふっ!なぁんだ、喧嘩じゃなかったのね!」と笑みを溢す。当たり前だ、こんなしょうもない事で喧嘩なんてしてたまるか。グレイグは未だにぐぐぐ、とオレを睨んではいるが、睨まれてもただオレは本当のことを話したまで。故に咎められることなどない。フン、と鼻で笑うと「お前、留学から帰ったらみてろよ!」とかなんとか喚かれた。その様子がおかしくて、思わずふ、と口元に弧を描くとグレイグも釣られて大口を開けて笑う。
 こんな他愛ない会話ができるのも、ソルティコに着く前までなのかと思うとほんの少しだけ寂しさを感じた。このデルカコスタ地方の空気を吸うことができるのもあと少しだけだ。何だか離れ難いような気さえしてくるが、あと何年かすれば帰って来られる。その時はまたこうして、他愛ない話で三人で笑いあえることを祈るのみだ―――否、オレたちならば大丈夫。離れていても心は通じ合えるものだし、何よりも"これ"がある。
 オレは二人に気づかれないよう、こっそりと胸元にかけた誓いのペンダントを握りしめた。

「―――お~い、グレイグ、ホメロス、!そろそろ出港するぞ!!」

 先輩兵士が声を上げた。

「あ、そうだわ!それを伝えに来たのよ!!」

「そういう大事な連絡はもっと早く伝えろ!ほら、行くぞグレイグ。暫くこのデルカコスタともお別れだ」

 が一足先に甲板の方に向かって行った。オレとグレイグはそれを追う形で甲板に出る。それと同時に、聞きなれない汽笛の音と共に船がゆっくりと動き出した。ゆっくりと、だが確実に住み慣れたデルカコスタの地と遠くに見えるデルカダール城が小さくなっていく。船はどんどんスピードを上げていき、先ずはソルティコに向かうらしい。先輩が言うにはどうやらオレとが向かうクレイモランに行くにはソルティコの領主に門を開けてもらい、外海へと出なければならないのだとか。グレイグとはそこで別れることになる。

「―――綺麗だなぁ、ホメロス。見ろよこのデルカコスタ地方を」

 小さくなるデルカコスタの景色を真っ直ぐ見つめながらグレイグが言う。遠くなる彼の地に思いを馳せていたオレは少しだけ反応が遅れたが、グレイグが構わず続けた。

「この景色、この土地、そして遠くに見える我が国デルカダール。……俺たちが守っていくんだ。その為にも、お互い頑張らないとな!」

「……そうだな。あぁ、そうだとも。誓ったからな、オレたちふたりで王国一の騎士になると」

 そう言って隣に立つグレイグに拳を突き出せば、あの時と変わらずオレの拳に自身の拳をあてがった。横を見ると、グレイグは満面の笑みを浮かべている。その笑顔の何と眩しいことか。あまりにも眩しくて、思わず目をそらしてしまいそうだったが、堪えて見つめ返しオレも同じように笑顔を浮かべた。そして、心の中で何度もあの頃の誓いと約束を復唱する。忘れぬように、友と交わした大事な約束を。辛く、苦しいことがあってもあの誓いを胸に思い浮かべれば耐えていける。努力することが出来る。
 オレは胸にかけた誓いのペンダントに再度手をかけると、グレイグもそれに倣ってペンダントを掴んだ。

「ホメロス。……友よ、忘れるんじゃないぞ」

「こちらの台詞だグレイグ!―――オレも頑張るから、お前も頑張れ。我が友よ」

「あぁ」

 二人でデルカコスタの地に向けて、再度誓った。
 そうしていると「グレイグ、ホメロス」と名を呼ばれる。紛れもなく、の声だ。オレたちが甲板に上がったときには既に姿がなかったが、彼女が両手にパンとジャムが入った籠を提げているのを見るに、メイドから昼食を貰いに行っていたとみえる。

「……もしかして、何か大事な話をしていたところだったかしら?」

「いや、もう終わったところだ。ほらグレイグ、いつまで呆けている?お前の分もオレが食うぞ」

 そう茶化すと、グレイグもわたわた駆け寄ってきて、からパンを受け取る。その後は三人で船室に戻り、ゆっくりと昼食を楽しんだ。
 目的地に着くまでの間、オレたちは特にこれといった仕事や鍛錬は決められていなかったが、はメイドとしてこの船でも清掃や食事の用意などがあるらしい。メイドというのも大変なのだと彼女を見ていると思う。出会った頃は美しかった白い手が、今や水仕事のせいで赤切れが目立ち少しかさついている。この手だけ見れば、貴族出身と言っても誰も信じないだろう。だが、それは彼女が普段から熱心に仕事に取組んでいる努力の証だ。だから以前のような、人形のように飾り立てられている一切の傷のない手より、オレはそういった努力を感じられる今の彼女の手の方がよっぽど美しいと感じていた。……変に勘違いされても困るので、直接伝えたことは一度もないのだが。

 昼食を食べ少し休憩をはさんだ後、はすくりと立ち上がって部屋を出ていこうとし、少しだけ立ち止まった。

「―――帰ってきても、またこうしてお話できるといいわね!じゃあ、また後で」

 そう言って彼女は笑顔を見せ、ドアを開けて出ていった。彼女の後ろ姿を見つめながら、オレとグレイグは互いに顔を見合わせ静かに頷く。
 彼女が甲板の方に上がっていくのを見届け、オレとグレイグは立派な騎士となるべく、手始めに本を読むことにしたが、開始数分でグレイグが飽きてオレに泣きついてきたのは言うまでもない。

双頭の鷲の留学時代の掘り下げが欲しかった。全六編になっております。

next→

Back