正直「してやられた」と思った。試合には勝ったが、勝負に負けた気分だ。おかげさまで俺たちのユニット"紅月"は火消し作業に追われている。全く、忌々しい。けれども、何も収穫がなかったわけではなかった。鬼龍や神崎がこういった悪意、敵意にはめっぽう強いこと、俺たちのユニットが抱える弱点など、今まで見えていなかったものが見えたことに関しては不幸中の幸いだ。とはいえ、俺はともかく、鬼龍や神崎にまで泥をかぶせたことに関しては腹の虫がおさまらない。Crazy:Bについては今後も注意するに越したことはないだろう。
「はぁ……」
「どうした、旦那。ため息なんか吐いて」
「何でもない。気にするな」
「おいおい、またそうやって一人で抱える気かよ?そういうのは良くねえ、って言ってるだろ」
お前にだけは言われたくないがな、と心の中で反論しつつ「疲労が溜まっているだけだ」と返す。鬼龍は少し休んだらどうか、と提案したが、今の状態では十分に休養を取れる気がしなかった。俺が休めば、その負荷は鬼龍と神崎に回ってしまう。疲れているのは俺だけではない。それに、動いていないと、どうも余計な事ばかり考えてしまいそうで、尚更疲れることは目に見えて分かっていた。
「――いや、大丈夫だ。ここさえ乗り切れば、まだ持ち返せる。こんなところで立ち止まっている場合ではない」
「ならいいけどよ。本当に無理すんじゃねえぞ。まぁ、の嬢ちゃんに"敬人が無理してそうなら殴ってでも寝かしつけてね"って言われてるんだけどよ」
「待て、なんだそれは。……殴るなよ、顔は!やるなら顔以外で頼む」
「殴るのはいいのかよ」
鬼龍とあれこれ談笑していると、少し気分が楽になった。すると、突然スマホのバイブ音がミーティングルームに響き渡る。炎上騒ぎに関する連絡が絶えなかった為、またそれに関することだろうかと思い、若干気落ちしつつスマホを確認すると、そこには意外な人物の名前が示されていた。思わず動きを止めると、鬼龍が不思議そうにこちらを見る。スマホの画面を見せると「噂をすれば、ってやつだな」と言いながら作業に戻った。
(そうか。まぁ、あいつが知らないわけがない。)
大方、心配して連絡をよこしてきたのだろう。大丈夫?とか、そんな感じに。
そう思いながら彼女とのトーク履歴を確認し、思わず俺はそこに綴られたメッセージに目を奪われてしまった。そこに綴られていたメッセージはこちらを心配する素振りは一切なく。ただ短く『応援してるよ、アイドル!』と綴られていただけだった。
「おい、鬼龍。見ろ」
「なんだなんだ、こんな時に惚気か?」
「違う」
鬼龍がどれどれ?と覗いた後、ふ、と笑みを浮かべる。
「……俺たち、愛されてんだなぁ。なら、それに応えるのが"ファン"に対する礼儀ってもんだろ」
彼女が綴ったものは『応援している』という、単純な言葉だ。けれども、今、このような状況の中にある俺たちにとって、その言葉が何よりも支えになる。アイドルとは、一人で成れる存在ではない。応援してくれる、愛してくれるファンがいてこそ、アイドルはその存在を最大限に輝かせることができるのだ。彼女は、それを知っている。だからこそ、彼女は敢えてこの言葉を選んで送ってきたのだろう。あいつのことだ、きっと心配だってかけている。あれこれ悩んで、また「私は何もしてやれない」などとほざいてきたらどうしようかと思っていたが、どうやらその心配は不要だったようだ。
それに、誰よりも一番近くにいるファンにその言葉をかけられた事が、俺にとっては何よりも嬉しかった。彼女が、多数の俺たちのファンが、紅月を――俺たちを愛してくれるなら、俺たちはまだ頑張れるし、何度だって立ち上がれるのだから。
「……疲れた、などと弱音を吐いている場合ではないな」
『ありがとう』と、彼女にメッセージを返しながらふと窓の外を見た。そこには俺の心境と同じくらいによく晴れた青空が広がっていた。
光と成れ
つくづくenstは愛の物語だなあと感じます。