「目、逸らさないでよ」
今にも泣き崩れそうな、彼女にしてはか細く弱々しい声でそう言い放った。普段の勝ち気で明るい、元気な彼女の美しいエメラルド色の瞳はうるみ、涙で頬を濡らしている。小刻みに揺れる様子から、涙をこぼしまいと耐えているのがわかる。……その抵抗は無駄だったようだが。
彼女のそのような姿を見たのは生まれて初めてのことだった為、なんと声をかけたらいいのかわからなかった。声にならない声が、頼りなく漏れるだけだった。
―――そんな事、急に言われても困る。
それが本音だった。そんな、だって自分は彼女を単なる幼馴染としか見ていなかったのだ。……いや、そう思い込むようにしていたと言ったほうが正しいのかもしれない。正直、自分でもわからないのだ。情けない自問自答を繰り返す間にも、彼女の目からは絶えず涙がこぼれていた。
「……なんか言ったらどうなの」
―――誰かが「女の涙はずるい、あれを見ると男なら誰でも守ってあげねばという気持ちになる」とかなんとか言っていたような気がするが、自分はそうは思わない。頼むからそんな顔をしないでくれ、とすらも言えないでただただこの場から消えてしまいたいと願うばかりだ。
この重い空気の中で、ひとつだけ味方をしてくれていると言えば、いつの間に振り出したのかわからない雨が、幼馴染の顔を濡らしたおかげで零れるそれが雨なのか涙なのかわからなくなったことくらいだった。
それは雨か
雨の中、傘もささずに向かい合っている……という構図は耽美で好きです。