羨望と愛憎と

「あぁ、聖十郎さま……」

 まるで神を崇めるかのように聖十郎と呼ばれた男を見つめる女がいた。馬鹿だな、と思う。この女が崇める男は、この女―――いや、自分以外の人間すべてを駒としか捉えていないというのに。案の定、いつものように崇められるのが「当然だろう」と言わんばかりの目線を女へ投げ、男は我らが主の元へ歩みを進める。一連の流れを眺めため息をつきつつ、私は女へ声をかけた。別段、用事があった訳ではない。いわゆる気まぐれだ。

「……馬鹿ね貴女。柊聖十郎なんて男の何処がいいのかしら?どうせ貴女のことも駒としか思ってないでしょうし、さっさと諦めた方がいいわよ」

 親切心、という訳でもない。哀れで馬鹿な女に現実を突きつけただけ。けれでも、返事はいつも同じだった。

「ええ、分かってますよそんなこと。いいんです、私はあの方の役に立てればいいのですから」

 ただ真っ直ぐに、しかしどこか虚ろな目でこちらを見返した女に迷いなど一切なかった。この女は、心の奥からこの碌でもない男を愛しているのだと、言葉に出さずともひしひしと伝わってくる。
 歪んではいるものの、どうでもいい"他人"を愛する女の様子は、かの憎たらしい男―――柊四四八を彷彿させた。

(―――ホント、揃いもそろって気持ちが悪い。他人を愛して何になるというのだろう。信じられるのは己だけだろうに。)

 その点では己を一番とし、他人は己の駒であると定義する柊聖十郎の在り方は好感が持てた。返事をした後、すぐ柊聖十郎の元へ駆け寄る女を見て、私はもう一度ため息をついた。

以前交流のあったフォロワー様の夢カプを書かせていただきました。

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