其の者に問う、掬いとは(あきるさん宅)

 耳を塞ぎたくなるほどの断末魔。嗅覚がおかしくなるくらいに充満する血の匂い。一言で表すなら、ここは地獄であった。人が人でなくなった残骸が散らばるその地で、一人。ただ一人だけ、天から舞い降りた聖の如き女が立っている。
「お、お助け、ください――どうか、どうか命だけは、」
 赤いドレスが風に揺れる。その裾を掴み、息も絶え絶えに男は女を見上げる。ふ、とこの世の救いかと見紛うほどの笑みを女は浮かべた。
「えぇ、もちろん。お助けしましょう」
 凛とした、けれども慈愛に満ちた響きは周囲に安心感さえ与える。男は目に涙を浮かべ女に縋る。ありがとう、ありがとう。神は存在した! この麗しき聖女様こそが――!!
 刹那の事であった。破裂音。破裂音。破裂音。男はすぐさま床に崩れ落ちる。そこに立つは、自身の背丈をゆうに越える銃を抱えた聖なる女。救いを得た、とでも言いたげな表情で。地と血だまりに伏せた者たちは、皆、男と同じ表情で死んでいた。
「死もまた救い。お兄さまのご命令ですので、悪しからず」
 女は踊る。一人、血で染め上げた白いドレスをこれでもかという程に揺らしながら。女の周りにいる者たちは、次々と女を彩る赤い塗料として消えていく。恍惚と、夢現に。女は踊り続ける。地獄で踊る聖女は、果たして。これもひとつの救いなのかと、問うものは誰ひとりとしていない。何故なら、その聖女の姿を見た者は、既に|死んですくわれているのだから――――。

あきるさん宅ことりちゃんをお借りして、あんステのパロです。

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