自分の足で歩く、と言っても彼は聞いてくれなさげだったので、大人しくその逞しくて優しい腕に抱かれながら月明かりの夜道をいく。今だ小言を垂れ流す彼―――幽雫宗近を軽くあしらいながら先程まで一緒にいた女の子のことを思い出す。
「(冷静で大人しくて、成績も優秀で周囲よりも大人びているあの子がねぇ……。)」
酒に飲まれたのか、普段は吐露できぬ想いをつらつらと吐き出す様は年相応で、微笑ましかった。やっぱり溜まってたんだな、と思わずくすりと笑ってしまったものだから、私を揺らす彼の腕がぴたりと止まる。
「おい。説教中に笑うなんて、教師としてどうなんだ指導」
「ふふ、やだなぁ……ちょっとくらい、ゆるしてよ」
「何がちょっと、だ。生徒と飲んで酔いつぶれる教師がどこにいる。全く……」
―――しょうがないじゃない、彼女には私みたいに後悔してほしくないからね、と心の中で呟いた。それも要らぬ心配だとは思うが。自分"たち"とは異なり、彼らは素直で柔軟だから。そんな思考が不覚にも彼に伝わってしまったのか、月明かりに照らされたその顔はどこか寂し気で、目を離さずにはいられなかった。
「どうしたの~~、くらなくん?」
「……いや。月が、あぁ……はは」
「ねぇ、星が綺麗だよ。幽雫くん」
我ながら、意地の悪いセリフだと思った。それを聞いて、彼は儚げにほほ笑んだ。
想いに気付かぬふりをした(琴さん宅)
春来ちゃんは国語教師なので『星が綺麗』の返しの意味を知らないはずがないんですね。もちろん、幽雫くんも。