140字SSまとめ

※名前変換なし

【桜ト愛シ君】(鯉登)

 窓を開けると、春風に吹かれ桜の花びらが空で踊っていた。温かく優しい日差しが腹ビラのダンスを見守っている。
 ―――あの方がもうすぐ帰ってくる。
 そう思うだけで私の心は此れでもかと云う程に脈を早めた。以前お会いしたのはいつ頃だろうか。思い返すと瞼に浮かぶはあの方の肩越しにみた紅の葉だ。嗚呼、遠くから馬車がやってくる。この春には少し不釣り合いな、褐色肌の愛しい君を乗せながら。

2020/03/11

【独白】(尾形)

 昼間の騒がしさが嘘のように、シン、と静まり返った森は大人であっても不気味さを感じざるを得ない。ただひたすらに続く闇と肌を撫でる夜風の冷たさは―――あの碌でもない少年時代を思い出す。目を閉じたとしても、今度は忌々しい弟の声が聞こえてどうにも気持ちが悪い。自分の後ろに立っているのが、弟なのではないかと錯覚するほどにそれははっきりと聞こえるのだ。
 ―――誰に向けたでもない笑いが、一瞬の静寂を壊した。

2020/03/11

【映える金色】(杉元とよその子)

 周囲の草木を揺らして、意地の悪い風はまたアイツの帽子を吹き飛ばす。咄嗟に頭を押さえつける彼女だったが、その程度ではその金髪の美しさを抑えることは、文字通り手に余る―――と言ったところか。緑に紛れる金色の髪は太陽と勝負でもしているのだろうか、負けじと輝いている。お天道様をよそに俺の目はその髪をみつめるのだから、結果は言うまでもない。
 ―――太陽すら取るに足らず、か。

2020/03/11

【たしかに温もりを感じた】(尾形)

 思えば、彼の隣にこうして腰掛けるのは当たり前になっていた。初めは彼の方が煙たがっていて、顔を合わせるのも、ましてや声をかけることさえ躊躇いを感じていたというのに。はぁ、と吐く息は白く、闇へと消えゆく中で、月明かりを反射した彼の外套から伸びる手はこれでもかというほどに青白く生気を感じない。私は、その手に触れるか触れまいかのところで同じように手をつく。しかし、偶然にも触れた彼の指先は―――。

2020/03/11

【―――といえしたもんせ。】(鯉登)

 それは唐突に彼の口から発せられた。前触れもなく突然の事で、頭の中で処理するのには時間を有した。数秒の出来事のはずが、一時間、いや、三時間くらいのように感じた。さぁっ、と私と彼の間を風が走り抜ける。風越しに見る彼の目はあの空を照らす太陽よりも眩しかった。
 ―――すいません、音之進さま。もう一度仰っていただけますか。
 聞こえなかったふりをしたかったけれど、嬉し涙のせいでそれは叶わなかった。

2020/03/11

【或る日のうさぎ】(銃兎)

 五日間の職務を全うし、今日は最高の土曜日になるはずだった。今日くらいは幾分か遅く起きても問題はないだろうと思っていたのに、同居人の、こちらの気は知ったことではないというような声で叩き起こされた。
 「銃兎サン!海行こう、海!!」
 「―――は?」
 どうでもいい、と心底思った―――が。朝日に照らされた彼女の、私を見つめるアメジストのような吸い込まれる程輝く、美しい瞳が断ることを許さなかった。全く、敵わねぇな。

2020/03/11

【オレは無言で抱きしめた】(グラジオ)

 やっとの思いで掴んだ彼女の腕は、不安になる程細かった。嗚呼、こんなにも細くか弱い腕で闘い、生きてきたのかと思うと、愛しさが喉元までこみあげてくる。振り返る彼女の顔はどこか悲し気で、しかし、その目は妙に熱を帯びていた。追われているなんて、想定していなかったのだろうか。それなら、その考えすら抱かせぬように、行動で示してやるだけだ。

2020/03/13

【だってこんなの、愛じゃない】(pkmn夢主)

 この世は「可愛い子には旅をさせよ」とか、「愛しているから怒る」とか、そんな都合のいい屁理屈ばかりの言葉で溢れていると思う。何が「愛」だ、馬鹿馬鹿しい。結局、「愛」なんて独りよがりで息苦しくて、他人を縛る呪いの言葉なのだ。
 ―――大丈夫、貴女は愛されるために生まれてきたのよ。
 それなら、どうして。どうして私はこんなにも……苦しんでいるのだろう。

2020/03/13

【照れ隠しの仕草】(グラジオ)

 目が合うと、彼は何時ものようにふいと目を逸らす。何で逸らすの、なんて聞かなくても理由は明白だ。彼は照れている。紅に染まる耳がその証拠。可愛い人だ、この状況より恥ずかしい言葉を毎日のように呟く癖に、何でもないようなふとした瞬間を恥ずかしがるのだ。愛しさがこみ上げたので、思わず彼の手を握った。

2020/03/13

【君が沈んだ、海に告ぐ】(グラジオ)

 鼻を掠めるのは潮の香り。聞こえるのは、波の音。それは至って普通の、どこにでもある海だった。ただ一つを除いては。オマエは今、この広い世界のどこで何をしているのだろう?何も言わずに消えてしまうなんて、ひどい話だ。消えた影を未だに追う自分にも呆れる。だから、オマエとの思い出はここに沈めてしまおうと思うんだ。

2020/03/13

【不意打ちはやめてください】(グラジオ)

 彼女はまた、いつものように呆けて外を眺めていた。特に何をすることもなく、ただ彼女はオレの部屋に来てぼうっとするのが好きなようだった。今日も例外ではない。すると、突然彼女は口を開いた。
 ―――ねぇ、グラジオ、好きだよ。
 シン、とした部屋に彼女の凛とした声が響き渡った。

2020/03/13

【奪われる】(グラジオ)

 気づいたら、彼はいつも私の目の先にいた。おかしいな、何でだろうなんて考える私が一番滑稽だった。そうしているのは私だ。私の目と彼との間には見えない紐がついているんじゃないかと思う。気にしないように、なんて逆に意識して、ふと目が合えば逸らして。馬鹿ね私、と自虐するくらいしかできないのだ。
(―――あぁほら、また目が合った。)

2020/03/13

【言えない想い】(グラジオ)

 ふわり、と肌をなぞる風と、それに応えて揺らぐ草原。何と長閑なんだろう。とても心地いい。―――それに不釣り合いなほど鼓動を早めるオレの心臓さえ除けば。
 原因はわかっている。隣に澄ました顔で寝ているこの女だ。落ち着けよ、オレ、と何度も諭したが無駄だった。言いたいことすら言えず、ただ時間だけが過ぎていった。
それでもいいか、なんて。随分弱気だな、らしくない。

2020/03/13

【いつだってドキドキしてる】(グラジオ)

 随分余裕だね、なんて澄ました顔で言うのだから腹が立つ。そんなわけないだろうと返しても、彼女はそれを聞き入れない。否、聞きやしない。手をつなぐだけでオレの心臓はいつもより駆け足になる。ふたりきりになったら尚更だというのに、そうも目の前の彼女はわかってくれない。その澄ました顔を崩したくて、不意に唇を奪ってやった。

2020/03/13

【最初からやり直せたら】(型月:ガウェイン)

 地平線に続く白。晴れることのない雪。何を思う訳でもなく、それを眺めていると自分を呼ぶ声がした。それはかつて愛した者に瓜二つの声だった。分かっている、彼女は彼女であって「かつての彼女」ではない。
 ―――酷いめまいと動悸が襲う。それに抗いながら、私は声のする方へ顔を向けた。

2020/03/13

【恋の香り】(型月:ガウェイン)

 ふわり、と鼻先を通る淡い香り。それは清潔感と、スパイスと、蕩けるような甘さを混ぜたかのようだった。無論、香水などの作り物の香りではない。そこに確かに存在していた香りだった。
 ―――どうしました、そんなに見つめて。
 そう声をかけられた途端、より一層強くその香りが私の周りを包み込んだ。

2020/03/13

【私の前で無理をして笑うな】(メタナイト)

 あぁほら、また。偽りの笑顔を貼り付けて、貴女は無理をする。誰にも心配させまいと、気丈に振る舞う貴女を見ると苛立ちが募る。そういうところが嫌いだ。気持ちを隠さなくてもいい私にまで気を遣うのだから、貴女は本当に馬鹿だと思う。無理やりに手を引き、自分の懐へ抱くと貴女は静かに一筋の涙を流した。

2020/03/13

【きみの温もり】(メタナイト)

 ―――アリス。
 ぐい、と蒼髪の男は、透き通るように美しい空色の髪をした女の肩を抱く。急に肩を抱かれた女はよろり、と体勢を崩したが男の胸へと引き寄せられた。
 ―――どうかなさいました?
 穏やかな笑みを浮かべた女は男に問う。男は無言で、自らの居場所を確かめるように、女を強く抱きしめた。

2020/03/13

【小さな箱庭の中で】(バロウズ市長とよそのこ)

 しんと静まり返った部屋にその女はいた。吸い込まれるほどに美しい赤眼を窓の外に向けながら、ふぅ、とため息をつく。途端、部屋の扉が開き革靴の音が静寂を壊した。
 やってきた男は、他には目もくれず真っ直ぐに女へと近づく。悪戯な笑みを浮かべた男は、女の腰へ手をまわし、唇が触れ合うその手前で呟く。
 ―――お前なんて死んでしまえ、と。

2020/03/13

【情に狂えば】(DIO)

 冷たい空気で満たされた部屋に響く女の甘い言葉。好き、たしかにそう聞こえたはずだ。何度も、何度もそう繰り返しながら誰に言うでもなく、ただ、淡々と虚空にむけて放つその言葉にはたしかに愛が篭っているような気がした。
「ジェシカ」
 その口を封じるかのように男は女の唇を貪り食らう。そう、その言葉が煩わしいとでもいうように。ただ、己の欲望に支配された獣のごとく。それでも、女は男へ告げるのだ。好きだと。

2020/03/17

【色気のない誘い文句】(ひろし)

「昆虫採集に行きます」
 彼は5限目の授業が終わるや否や、すくりと椅子から立ち上がった。そのまま綺麗に後ろを向き、無言でこちらをじっと見る。勝手に行けばいいじゃない……とは思うが、私がついて来ないと分ればすぐ別な人に声をかけるのだろう。それが酷く気に食わなかった。
「―――何でもいいけど、デートの誘いならもうちょっとマシな台詞にしなさいよね!」
 私はそう言って立ち上がった。全く、此方の気も知らないで。

2020/01/26

随時更新・追加します。

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