分かられてたまるか(花京院典明)

 つう、と首をつたう汗。肌にまとわりつくシャツは不快そのもの。うんざりする程照りつける太陽を睨みながら彼女は窓の外へ目をやる。それだけでも憂鬱になるのに、セミの声をかき消す程の同級生達の声は騒々しいの一言に尽きる。

「ジョジョ~!」

「花京院くんどこ行くの~?」

「ちょっとジョジョとさりげなく腕組んでんじゃないわよ!」

「アンタ今花京院くんに触ったでしょ!?」

 空条承太郎。花京院典明。この学校で知らない人はいないと断言できるほどの有名人である。二人ともタイプは違えど、異性は必ず振り返る容姿をしている。その二人が並んで歩いているのだから、セミよりも騒がしくなるのは当たり前かと彼女は心の中で悪態をつく。

「あ、承太郎。ぼくはここで……」

「……あぁ」

 承太郎の取り巻きはそのまま彼について行こうとして、怒鳴られる。それでもついて行こうとするのだから、いかに空条承太郎という男が魅力的であるかひと目で理解できる。一方、花京院の取り巻きは、彼が何の為に承太郎と別れたのかを察して先ほどの騒々しさが嘘のように静まった。セミの声が辺りに響く。

「ごめん、少し用事ができてしまって。待ったかい」

「……そんなことないよ、典明」

「そうかい?……それにしても今日は暑いね」

 取り巻きには目もくれず、彼は窓の外を眺める少女……の元へ歩み寄る。先ほどのうんざりした顔から一変して、彼を見つめる彼女の目は歳相応で、恋する少女のそれそのものだ。そんな彼女を見る彼も、心なしか口元がかすかに孤を描いているように感じる。

「じゃあ、帰ろうか」

「うん。途中、コンビニでも寄らない?……アイスが食べたい」

「そうだね、ぼくもそう思っていたよ」

「でしょう、本当に暑いもの。今日は」

 やけに距離の近い二人を、花京院の取り巻き達が彼女、を心底不快であるという顔つきで見つめる。中にはセミにかき消されそうなほどの声で何か呟く者もいる。

「何よあいつ」

「ていうか、花京院くんのなんなの?」

 それを聞き、花京院が何か言いかけるのをは典明、と止める。特に怒るわけでもなくただ彼女はうっすらと笑みを浮かべていた。二人が教室を出た時、すれ違う取り巻き達を横目に彼女が小さな声で、しかしそこには確かな感情を込めて口を開いた。

「貴女達には、何もわからないでしょうね。私のことも、典明のことも」

 暑いはずの空気が、一瞬氷を肌につけたかと思うほどに冷えた気がした。

幽波紋使い同士の秘密。あの旅から生還していたらこんな事もあったのだろうと思うと苦しい。

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