月と雨(雅)

 ひゅう、と肌を撫でる風は冷たく、氷のようだった。季節は春に近いというのに、屋敷の陽当りの悪さも相まって寒さに拍車をかけている。辺りも暗く、明かりとなっているものは彼の座っている横に存在する灯籠だけだ。ほんの少し彼に目配せをすると、ハ、と短くため息をつかれた。そこらの女子よりも白く血色の悪い肌は妙に艶やかで、美しく色づけた唇から覗く犬歯は鋭く尖っている。流れるような髪は白く、一見して明らかに"人間ではない"。

「どうした、……。物欲しそうな目をして、まだ足りないか」
「まさか。これ以上ですと壊れてしまいますよ雅さま。……少し肌寒いと感じただけです」
「脆いな、人間は。この程度の寒さすら耐えられんか」
「ええ、吸血鬼ほど強くはありませんから。それに、雅さまもよくご存知でしょう?"私"はそこまで身体が丈夫な方ではないのですよ」

 興味なさげに「そう言えばそうだったな」と返される。そしてそのまますくり、と立ち上がり障子の方へと歩みを進めた。その仕草でさえも雅様は美しい。”あの頃”、私がまだ”私”として存在していた時代から雅様は何も変わっておらず、雅様の復活と共に目覚めた私―――は、また雅様に恋をした。雅様が障子を静かに開けると、ちょうど雲の隙間から覗いた月が彼の横顔を照らす。
 誰にも聞こえぬように呟いた「月が綺麗」という言葉に重ねるように、雅様は「雨の匂いがする」と零したのだった。

まさか雅様夢小説書くとは思っていませんでした。

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