英雄と悪(ノコレッド)

「……で、こうなんスよ!はどう思うッスか?」

「そうねぇ、まあピンキーはオトコっぽいとこあるからね。しょうがないんじゃない?」

「しょうがなくないッスよ、オレっちの身がもたないッス!」

 遠くの方でカメキとが話しているのが見えた。は道に迷っていたところをカメキに助けられてそのままこの村に居ついている。本当は迷いの森出身のテレサの女の子だ。テレサらしく肌は透き通るような白色でいくら外に出ても焼けない。女子としては羨ましい限りではないだろうか。

「んじゃあ私から言っておくわよ、下着でうろつくなーってね」

「もうホント頼むッスよ、あ!レッドじゃないッスか」

「あら、カメキの親友のレッド君じゃない」

 ―――親友?カメキと俺が、親友!?おいおいおいおい冗談じゃねぇよ。たしかに仲は悪くはないがそれよりも俺はお前を親友だと思ったことはないぞ!?むしろライバルだ、こいつは性格もいいし顔もいいしおまけに家庭的なところもあって女子のファンが多いいわゆる―――イケメン。俺も俺で決してモテないわけでもないが、何故か俺が惚れた女子はこいつに惚れる。それだけではなく俺がやること成すこと全てこいつの引き立て役になる始末。

「うっせえよ、俺とお前が親友なわけねぇだろ」

「あー!ひどいッス、レッド!一緒に風呂入った仲じゃないッスか!?」

「あーあー、分かったから。うっさい。少し黙りなさいよ全く」

 そう言っては喧嘩の仲裁に入る。これが日常化してしまったのはいつからだったか。未だにカメキがに抗議していて彼女が呆れた顔をして聞いていて俺は一人取り残されたような感覚に陥る。……しかしこうやって見るとカメキとはお似合いカップルのようにも見える。そう思うと心が痛むようになったのはつい最近のことでもない。この感情は言わずもがな、多分恐らくきっと―――。

「貴方達本当に仲いいわねー、カメキの口からレッドの話を聞かされない日は一日もないわよ」

「え?そうッスか?」

「お前っ、変なこと言ってないだろうな!?」

 い、言ってないッスよ?とカメキが言う。―――こいつ絶対言ったな。隠しても自然にわかってしまうというのが幼馴染というもので。それにしても何を言ったのだろうか気になるところ。女子、しかもそれがに言ったとなれば尚更気になる。
 思いつく限りの変なことを考えてみると―――、いや、考えるのはよそう。

「はぁ、もういいよ言ったんだろ?何年一緒にいたと思ってんだよ」

「す、すんませんッス」

「まあいいじゃない?それくらい仲がいいってことで―――」

 本人は気にしているような素振りもなくニコニコと笑っている。ほっと安堵の溜息をもらす。良かった、カッコ悪いだなんて思われてなくて。
 すると、だんだん俺の意識がぼんやりしてきた。カメキやや周りの景色がぐにゃりと歪んだ―――。そこで俺の意識は完全に途切れた。

「―――あ」

 なんだ、夢か。俺はどうやらいつのまにか眠っていたらしい。随分懐かしい夢を見た。一年以上前の夢だった。あの頃はまだ―――。いつからこんなふうになってしまったのか、何が俺らを変えたのか?俺も相当悪に飲み込まれたらしいな、そんなのどうでもいいや、なんて思ってしまう。俺も、兄弟たちもまだ村人に嫌われていなかったとき。俺らが大好きなスリルなんてなかったけれど―――。

「楽しかった、なぁ」

 両腕を天井へと伸ばして、手を握った時に思い出したものがあった。それはあの頃いつも一緒だったやつの顔で、言葉で―――。

「何言ってんスか!!オレっち達はずっと一緒ッスよ!!」

 そして、ライバルだったカメキの言葉。ずっと一緒―――、それが今はどうだ?あっちは正義のヒーロー、こっちは悪のヒーローか。笑えるな、いつも一緒だったのにこうも違いが出るなんて。スリルを求めて大王様のもとについたが、俺が求めていたものはこんなものだったかと疑問に思う。

「結局何がしたいんだろう」

 俺が求めていたもの―――。そんなのとっくに気づいていた。ヒーローとか、そんなのはどうでも良かった、どうでも。だが俺はそれから目を逸らした。なぜならそれはきっと、どう頑張っても手にはいらないものだって知っていたから。スターの杖を使っても絶対手に入らないもの。俺はあいつが羨ましくてしかたがなかった。羨ましくて羨ましくて羨ましくて、妬ましい。歪んだ思い、醜くなってしまった心―――。

「はっ…、ははは…っ」

 いつの間にやら俺は泣いていたらしい、頬に冷たいものがつたる。
 なんて情けない。汚くて醜くてずるい自分が嫌で嫌で狂った俺はクッパ様の力を借りて何もかも形がなくなるまで壊し続けた。形があるものも無いものも。

 ―――そして村外れの砦へと移住して今に至る。
 こう考えると兄弟たちには迷惑をかけた。―――、さて、そろそろか。
 もうそろそろかの有名なマリオがやって来る。仲間を連れて。大王様からの速達でそう連絡があってからそんなに時間もたっていない。正義のヒーローだと?そんなの、そんなの―――。

「俺達兄弟がぶっ潰してやる」

 そのマリオが連れてくる仲間に、カメキがいることをレッドが知るのはもう少し先のことである―――。

このノコレッド、今考えるとだいぶ解釈違いですね……、レッドはもっとおバカでいいと思う。

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