船長さんと私(コルテス) /

 青い海、白い雲。きっとみなは言うだろう。「ああ、綺麗だな」と。そんな綺麗な景色を見ても何も思わない。だって今から私は―――。
 ごめん、ごめん……。と聞こえるが私は何も感じない。そんなものが何になるというのだ。泣けば私が助かるとでも言うのか?それとも泣けば許してもらえるとでも思っているのか。あいにく私はそんな同情は好きじゃない。むしろ笑って送ってくれ。私が今胸に抱いてる思いは無だ。なんとも思わない。思えない。さっさとやるならやればいい。人柱にされ、吊るされている身にもなってくれ。死ぬならさっさと死にたい。未練もないのだから。

「………皆様。私は今から神のもとへ行くのです。怖くなんてありません」

 ―――だから、早く押してください。どん、と音がしたかと思えば私は真っ逆さまに荒波の海へと飛び込んだ。ああ、今から私は死ぬんだ。恐怖などない。全て私が悪いのだから。そう、私のせい。目を開けているのも何だから、波に飲み込まれながら私は目を閉じた。

 あれから約二百年の時が過ぎた。神のもとへ行こうとはしたものの足が重くて上がれない。そうなるのは知っていた。人柱としてその場に縛り付けられ、そこから逃れようなど無駄なこと。そんなことも知らずに海に投げた人達に怒りを覚えたがそれも無駄だ。もうとっくに死んでいるだろうから。思えばつまらない人生だった。二百年の時が経っても未だに蘇る記憶。  時々ここに遊び半分で来た奴らを海に引き寄せて魂を食べながら生きてきた。もう死んでるけど。………考えていたらむしゃくしゃしてきた。

「やることがありませんね」

 なんせここから移動することもままならないので暇だからと言って何も出来ないのだが。
 そんな事を考えていたらふと、あたりが暗くなった。何事かと思い上を見る。船だ。船が頭上に泊まっている。こんなところに何故?とりあえず面白そうだ、少し様子を見るとしようとしたが、それも不要のようだ。誰かがこちらへ泳いでくる。ここを泳げるだなんてたいしたものだ。ここは水流が交わっているので流れが早く、人間なら溺れる場所なのだが。ここをスイスイ泳げるのは魚か幽霊だけだ。よく目を凝らしてみると海賊服を纏った―――。

「―――怨霊でしょうか」

 私も地縛霊のようなものだから雰囲気でわかる。怨霊だ、しかも海賊王の。生前、海賊王の話をよく聞かされたものだ。海賊王コルテスの残した財宝が眠っている島があると。そして死んだ今もなおその財宝を守っていると。そんな海賊王がなぜこんなところに?海賊王の怨霊は私の目の前にゆっくり降りてきた。無言の時間が続く。………ジーっと見つめられているが一体何のようだか。相手が唐突に口を開く。

「女、なんでこんなところにいるんだ?」

「……人柱ですので、動けないのです」

「ふーん。ここから出たいか?海の上に行きてぇか?」

「もちろん。でも動けませんよ、私」

 この人はいったい何がしたいんだろう。久々に誰かと話ができて暇ではなくなったけれど。海は好きか?旅は好きか?質問が終わり最後に彼はニヤリと笑いこう言った。

「じゃあ決まりだ。お前は俺様が連れて行く」

「……あの、私の話聞いてましたか?」

 どうやって?とは思ったけれどそんな事を問う時間もなくぐいっと手を引かれれば今まで行こうにも行けなかった上へと上がることができた。ぐんぐん上へと登って、今まで居た場所がだんだん小さくなり、陽の光が強くなっていく。いいか、と海賊王は上を見ながら私に言う。俺様の言うことは絶対だ。お前は俺様に何があってもついてくること。自由はないと思え。それでもついてくるか、と。なんだそんなことか。ここから出られるならそんなことは苦でもない。私は答える。もちろん答えは―――。

「はい」

「ほう?いい返事じゃねぇか」

 そんなこんなで話していたらあっという間に海上へついた。ああ、こんなに陽の光は眩しかったか。ひさびさの海上はとても懐かしく美しかった。
 頭上には海鳥が鳴き足元をみれば魚の群れが通る。あまりにも懐かしくて自然と涙があふれる。やっと抜け出せた。

「おい。なにぼーっとしてやがる。さっさと海から上がれ」

 いつの間にか海賊王コルテスは自分の船に上がっていた。私も指示通りに甲板へ上がる。ずしり、と二本の足に重力が加わる。この感じも二百年ぶりだ。久々に二本足で立ったものだから少しふらつきながらも歩くことは出来る。ついてこい、と言われてのでそのまま船の内部へ進む。

(これが海賊王の船……)

 ギシ、と音を立てて戸を開ける。中を見れば、もっと豪華なのをイメージしていたが意外にも内装はいたって普通のようだ。しかしそこらに財宝が転がっているのでそこはさすが海賊王といったところか。あたりを見回してみればいくつも部屋があって何が何だかわからなくなる。どんどん進んでいくと急にピタリと歩くのを止めこちらを振り向く。

「入れ」

「はあ」

 中に入れてもらったら驚愕した。今までとはまったく違う内装で、後ろの方には息を飲むほど美しい輝きを放つ財宝の数々。思わずゴクリと生唾を飲んだ。カツカツとコルテスは奥の方にあるイスにどかりと座った。途端に開いていたドアが大きな音を立てて閉まる。あまりにも大きな音だったからびくりとした。

「お前、名は?」

です」

「ふーん、いい名じゃねぇか。、ねぇ…」

「このたびは助けて下さりありがとうございます」

 すると海賊王は目を点にしていきなり笑い出した。その反応に私も同じように目を点にしたら急に笑うのをやめ口角をあげてこちらを見る。そんな妖しい目で見つめられては私でなくともこれは緊張するだろう。そんなことはつゆ知らず彼から出たのは思いもしないことだった。

「助けて?馬鹿言ってんじゃねぇ。誰が好き好んでわざわざ助けに行くか」

 俺様はお前が使えそうだったから連れてきただけだ、と。俺様を甘く見るな、ただの海賊とはワケが違うと。もちろん、知っている。海賊のこととなれば必ず、今の時代の教科書にも出てくるであろう名前、海賊王コルテス。そう言えば「呼び捨てにするな」と怒られた。一定時間考えたあとに船長さん、と言ったら何も言わなかったから船長さんと呼ぼう。まあそれはおいといて。

「つ、使えそうだから……」

「なんか問題でもあんのか?ねぇよな、よ」

「は、はい。ありません」

「そう、お前はただ俺様に従うだけでいいんだよ。反抗したら……」

 キッツーいお仕置きが待ってるぞ。と海賊王……船長さんは言った。もしかしたらこの状況、とんでもなく危ない状況かもしれない。でも、それでも上にこうしていられるのは彼のおかげであるわけで。性格上恩を仇で返すような事は絶対にしたくない。……せっかく上に上がれたと思ったのに。

「だから言っただろうが。自由はねぇと。これからよろしくな」

「は、ハイ」

 おう、と短く返事をされたあとは部屋から出されて船から降りなければどこに行ってもいいと許しが出たのでとりあえずは船を見て回ることにした。
 ―――これからどうなるんだろう私の運命は。死んでるけど。

かなり中途半端で終わりますが連載まとめとして残しておきます。

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