むかしむかし(コルテス)

「今日は少しはりきりすぎましたね」

「おろろ~ん」

 まさかこんなにも早く仕事が終わるとは思ってもいませんでした、とは言う。
 いつもはもう少しかかる船内の掃除もいつもと違う方法で行ったら意外にも一時間弱時間を短縮することができた。―――マルコから譲ってもらった掃除機のお陰で。
 この間トロピコアイランドへ向かう際にマルコも用事があるとかで一緒に連れて行ったのだがその時に船内をほうきのみで掃除していたを哀れに思いお古を譲ってくれたようだ。

「次の仕事にはまだまだ時間がありますし……あ。そうだ!!昔話でもします?」

「おろろん!」

「なんせ二百年前に聞いた話ですし、しっかり覚えているかは不安なのですが。それでもよければ」

「おろろ~ん!」

「では、とある海賊の話でも」

***

 昔、それも八百年以上も昔のお話。とある竜の海賊のもとに可愛らしい男の子の赤ん坊が生まれました。その赤ん坊はその海賊とどこの生まれかもわからない身分の低いものの人との間に出来た異種族の子供でしたが、海賊も人もたいそうかわいがっていました。しかし、人間の女のほうは子供を産んですぐに不治の病にかかって死んでしまいました。海賊は困り果ててしまいましたが、あの手この手でどうにか、部下とも協力し育てる事が出来ました。その子は大きくたくましく育ち親の跡を継ぐかのように立派な海賊として成長しました。

 小さい頃から海賊として育てられた子供は一度の探検で大きくその才能を発揮しました。
 宝を求めて何百何千何万もの海図を、時には交渉、時には他の海賊を力でねじ伏せ、時にはもっと残虐なことをして手に入れて。いつしか彼の海賊団はとても大きな力をもつようになりました。そこらの海賊団では比較のしようがないほどに。その大きな力を持った海賊団の船長…竜と人間との異種族の子はその海賊団内では神と同様に崇められ、信頼され、人間の間では悪魔と恐れられるようになりました。

 彼はお宝が大好きでした。数えきれないほどの航海で沢山の宝を手に入れた彼。そんな彼を慕うものは多かったのですが、あまりにも多い宝の数に目が眩んだものもいました。そんなことはつゆ知らず、まだまだ宝の山を求め暴れまわる彼の海賊団の名前は全世界に広まり彼は「海賊王」と呼ばれるようになりました。

***

「おろろ~ん?」

「あ、もちろん終わりじゃないですよ?一応ここで区切って、この話、いくつかの章みたいにわかれてますし、いろんな説があるものですから」

「おろろ~んおろろ~ん」

「あぁ、冒険の話が聞きたいのですね。じゃあ」

***

 そんな海賊王の冒険は、いつも危険がつきまとうものでした。その中から抜粋していくつか紹介しましょう。
 ひとつ目は彼が初めて探検した島のお話。
その島はヘヴンアイランド。天国の島、という意味を持つたいへん美しい名前の島でしたが、そんな名前とは裏腹にものすごく恐ろしい島でした。外見はとても美しいのですがひとあし踏み入れればもう二度と生きて帰れることはないと言われるくらいに……。
 一見美しく咲き乱れる花がたくさん咲いた花畑は全てが人喰い花で、彼は幾度と無く食べられそうになりました。彼の部下は何人か犠牲になってしまいました。次は青々とした空をまるで鏡のように写す湖でした。しかしその湖にはこの世のものとは思えない怪物が住んでいました。彼はボロボロになりながらなんとか倒しましたがここで部下たちの数は激減してしまいました。そうしてやっと手に入れた宝の名前はドクロジュエル、といいました。それを船に持ち帰るとたちまち船は燃料も何もいらない、ドクロジュエルがあれば動く船へとなりました。それには彼も大喜びでした。しかし、部下たちの犠牲があり手に入れたもの…、彼は島を去る前にドクロジュエルとともに見つけたクリスタリアという美しい輝きを放つ花を手向けて、この島から離れました。

 ふたつ目の話は、彼が成長し、海賊王として名を馳せていた頃の冒険。
 もしかしたらこの冒険が一番危険であったかもしれないものでした。とある海図を手に入れた彼は、すぐさま準備を整えて探検に向かいました。この海図は多くの海図を見た彼をうならすほどの代物でした。大きな大きな海図には宝の場所など書いてはいませんでしたが彼はあぶり出しという方法でそれを見つけました。その場所に向かう途中、妙な胸騒ぎを覚えながら。宝の場所らしきところについてもそこにはだだっ広い大海原があるだけで何も見当たりませんでした。……が、帰ろうとしたその時のことでした。晴れ晴れとした空は一瞬にして黒く染まり雷を轟かせ大雨を降らせます。穏やかだった海は空の鳴き声にあわせるように荒々しくなりました。彼の嫌な予感は見事に的中しました。その場所は、宝の場所ではなかったのです。大きな地響きとともに、海の中から巨大な化物が姿を現しました。それは伝説上のいきもの、水龍でした。彼は船員に誰も、一歩も船内から出るなと伝えて一人で水龍と死闘を繰り広げました。勝負は引き分けとなりましたが彼は片腕をなくしてしまいました。宝は諦めざるを得ませんでした。

***

「あとはどんなのがあったかなぁ」

「おろろ~ん」

「え!?もうこんな時間!あと二話くらいですかね、話せるのは」

「おろろ~ん!」

「最近の話が聞きたい?では、そうしましょうか」

***

 そうそう、この海賊王が海で暴れまわっていた頃、陸地では恐ろしい魔物がこの世界を支配していました。この魔物は「この世の全てが私のものだ」と主張するかのように三匹のドラゴンを各地へとばし、さらに自分の力と同等の力を持ったスターストーンなるものを作り上げこれもまた、各地へひとつずつとばしました。それにより、世界は魔物のものと化したように思えましたが―――。海賊王も、「この世界の海と財宝は俺様のものだ」と主張していたので、いつしか2人は対立しあうようになりました。互いが互いに邪魔なので何度も何度も消そう消そうと行動を起こすものの、どちらも一歩もゆずらずで決着はつきませんでした。ところが、魔物のほうは、立ち上がった四人の勇者により封印されてしまいました。ざまあみろ、そう思っていた海賊王にも、とある悲しい出来事が起こってしまいました。誰も予想しないような、悲しい悲しい出来事が。

 それは、まだ三十にも満たない若い彼が生きていた頃の最後の冒険で起こったのでした。とある島に伝わる伝説のお宝を目指し海賊王は鬱蒼としたジャングルの道をくぐり抜け、危険な動植物を避け、時には倒しながらズンズン進んでいきました。大事な部下を一人も減らさずに。そうしてたどり着いたのはいかにもお宝がありそうな洞窟でした。
 冒険にも慣れた彼は仕掛けを物ともせず解いてゆき、ついに洞窟の一番深いところへと歩みを進めました。この宝を手に入れることができれば……、彼は本当にこの世界を統べる海賊王として君臨できた―――はずでした。彼らは誰一人かけることなく最深部へとたどり着きました。目の前には今まで見たこともないような宝の山がありました。彼…海賊王はまるで子供のように目を輝かせて宝に手を伸ばし―――倒れたのです。

 背中に尋常ではないほどの激痛が彼を襲います。口からは大量の彼の血が吐き出されました。痛みに耐えながら後ろを振り向けば、彼の部下が彼を見下ろして…こう言いました。

「残念だったな、もう俺達はお前なんかにゃついていかねぇよ!この宝は俺らのものだ!!今までご苦労様でした、船長……くくっ」

 そう、彼の部下の一人がクーデターをおこし彼を殺したのです。彼は信頼していた部下に殺されたのでした。悔しい。憎い。あいつらが憎い…。そう悔やんでも悔やみきれないほどの恨みと、宝に対する異常なほどの執念を持ちながら彼の意識は途絶えたのでした。

 ―――そんな彼の意思など知るはずもなく彼らの部下はついに俺達が海賊王になれると大喜び。宝の場所まで船を持ってきて船長室へと宝を次々に運んでいきます。そんな中、一人の部下はふと、彼の死体がある場所へ目を向けました。もちろん死体ですから動くわけがない、しかし彼は何かおかしいことに気付いたのです。うつ伏せに倒れていた船長が何故か洞窟の壁によっかかる形で座っていました。しかしきっと誰かが動かしたのだろうと考え、また作業に戻りました。

「さあ、ついに俺達が海賊王になる瞬間がやってきた!」とクーデターをおこした本人がそう言って船の舵を取ろうとした刹那、突然彼が大量の血を吐いて倒れたのです。なんだなんだと周りの部下は騒ぎます。原因がわからない、本人も何が何だか分からない。そんな彼らの耳に背筋も凍るような恐ろしい、しかし聞き慣れた声が頭に直接流れるように聞こえてきました。

『誰だぁ、俺様の……宝を横取りした奴はぁ……』

 ギョッとして全員はとある場所を見つめました。―――それは、先程殺した船長の死体があった場所。しかし船長の死体は跡形もなく血まで綺麗サッパリなくなっていたのです。恐ろしい声はまだ聞こえます。

『死にてぇのかてめぇら。いいぜ、そのとおりにしてやるよ……』

 その途端部下の一人が大きな悲鳴を上げて上を見ろ!!と叫びました。
 そこには、先程殺したはずの船長が怒りに満ちた顔でこちらを睨んでいました。誰かが「せ、せ、船長の―――。船長の怨霊だあぁぁぁ!」と叫びました。
 彼が手を大きく広げれば、その場にあった刀やらレイピアやらがまるで生き物のように浮遊し始めます。部下たちは恐ろしさのあまり腰を抜かし、中には気を失うものもいて、その場を表すならまさに地獄という表現がピタリと当てはまるでしょう。船長はわざとらしくゆっくりゆっくり彼らの方に指をさすような動きをし、ピッと彼らへ指を向け、瞬間今まで浮遊していただけの武器が彼らめがけて―――。

『くくっ、俺様の宝は誰にも渡さねぇ。俺が……、この俺様が海賊王だ……!』


 その場に残ったものは、部下であったものの魂のない器と、大量の血と、宝と船と彼の怨霊のみ。
 そして時は流れ―――、未だにその場所には一生遊んで暮らせるほどの財宝と共に船長の恐ろしい怨念が八百年たった今でも残っている、といいます。そしてそこに辿り着いたものはたとえ宝物を発見したとしても海賊王の怨霊にとりつかれ、魂を抜かれると言われています。

***

「ふぅ。長話をし過ぎましたね。では作業に戻りましょうか」

「おろろん!!」

 いざ、戻ろうと二人が立って後ろを振り返るとそこには海賊王コルテスの姿があった。
 いつの間に、とおもっただったがあえてくちにするのはやめよう。コルテスはよっこらしょ、と言って二人の前に座る。

「おもしれぇ話をしてんじゃねぇか。俺様にも聞かせろよ」

「え、いやあの……、それは船長さんのほうがよくご存知だと思いますが」

「いいから聞かせろ、俺様はてめぇの口から聞きてぇんだよ」

 な?とわざとらしく耳打ちすれば、の顔はみるみるうちに桜色に染まる。密かに想いを寄せているつもりだが周りはおろか本人にだってバレバレだ。当の本人がどう思っているかはわからないのだが。お返しだ、と言わんばかりに彼女が言う。

「その海賊王は今何をしているのでしょうね」

「は!?……た、楽しく暮らしてんじゃねぇの……ってんなもん知るか」

「ふふっ、そうですね!」

「そうだな、兄貴肌なボム兵と口がくそわりぃボム兵とドラゴンの骨の子とクズで馬鹿なやつとくっそうぜぇアマと」

 淡々とそうのべるコルテスの顔はどこか嬉しそうに見えた。千年もの間、たったひとりで過ごしてきた彼がどんな思いで過ごしてきたかはわからない。しかし海賊王といえども人間に変わりはない。きっと寂しいと思ったこともあるんだろうな、とはふと思った。そんな事を考えていたら途端にの顔がぐいっとコルテスのほうへ向けられる。

「最近出会った―――、美しい幽霊のお嬢ちゃんと毎日な!」

「な、何を言って……!」

 船長さんやめてください!というの叫び声がトロピコアイランド内に響いた。

超捏造設定ですが、わりと気に入ってます。尊敬しているフォロワーさんの影響でもある。

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