控え室にて(メタナイト)

「これで、私たちはずっと一緒ですね」

 ふふ、と幸せそうに彼女は笑う。彼女の笑顔はこれまでも幾度となく見てきたが、これ程美しく、ほころぶ花のような笑みは見たことがなかった。それ程までに、彼女は今、この時を幸福に感じているのだろう。そう思うと、私もどう表現すればいいのかわからない程に満たされた気持ちになった。
 だが、それに反して唯一悔いている事がある。

「――、その……結婚指輪のことだが」

 そう、彼女の左手の薬指には、今あるべきものがない。そういう場であるのに、あろうことか私は用意することが出来なかった。理由は単純で、あまりにも悩みすぎて式に間に合わなかったのだ。なんて情けないのだろう。ふぅ、と軽くため息をつくと、はそんな私の心を読み取ったのか、大丈夫ですよ、と一言私に声をかけてから続けた。

「指輪がなくても、夫婦になれます。指輪に誓えないなら、私自身に誓ってくださいませんか?」

「そなたに……か。いや、まあそれはそうなのだが、やはり形としてあった方が……」

 そこまで言ったところで、彼女は「もう!」と頬を膨らませた。せっかくが気を遣って発言してくれたのに、それに乗らないのは失礼だと分かってはいる。けれど、やはりどうしても自分に納得がいかないのだ。全て私自身のせいなのだが。

「真面目ですね、メタ様は。……けれど、そういったところも素敵だと思います。皆の指揮を執り、最前線で星を守るために戦うあなたの姿も、執務中にこっそり甘いお菓子を食べては部下の皆様にバレないようにと必死に隠し通す様も。あなたの全てを愛していますわ」

 照れが混じった顔で、彼女はこちらを見る。いや、執務中に云々というやつは忘れてほしいのだが、と返せばは口元に手を当ててくすくすと笑った。

 結婚式というこの状況で、普段から美しい彼女が、ウェディングドレスを身に纏いその美しさたるやなんと言葉にすればいいのかわからない。更に、愛らしい言葉を零し、愛らしい表情でこちらを見られては、私も色々我慢の限界がくるというもので。
 ――彼女は私を真面目だと言ったが、男という性は案外簡単に牙をむくものだ。愛する彼女に、可愛らしいことを言われれば真面目な私とて、例外ではない。

「真面目?――はは、そんな事はない。今この瞬間にでもそなたを抱きたいと思っている」

「そ、それって――」

「あぁ、もちろん抱擁という意味ではない」

 ドレス姿の彼女を、近くにあったソファーに軽く押し倒す。すると彼女は真っ赤な顔で「だ、ダメですからね!?」と抵抗するがそれさえ興奮剤にしかなり得なくて、我ながら呆れる。あぁ、男という性は本当にどうしようもないな、なんて自嘲しつつ彼女に口付けをした。

 指輪がないなら自分自身に……と言ったのはそなただぞ、と言い訳にすらならない台詞を吐く。それを聞いて彼女はわなわな唇を震わせていたが、やがて諦めたのか何も言わずに私の目を見つめた。

「――冗談だ。まぁ、しかし今夜は覚悟しておいてほしい。そなた自身に誓っていいのだろう?私がどれだけそなたを愛しているか、教えてやろう」

 そう告げてから、新郎の控室に戻ろうと扉に手をかけた瞬間「何言ってるんですか!!」と彼女の声が大きく響いたのは言うまでもない。

以前……といっても十年前くらいに書いたものをリメイクしてみました。文章力はまあ、多少は上がったんじゃないかな……。

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