自分の腕の中で抱いた女に囁くように、男は呟く。
「貴様にとっての恐怖とはなんだ」
「恐怖、ですか」
そうですわね、と腕の中を離れ、すっと起き上がる女は一糸も纏わぬ生まれたままの姿でいた。月明かりに照らされたその姿はさながらヴィーナスといったところか。二十歳くらいの外見にも関わらず、身に纏う空気は幾年をも過ごしてきた雰囲気を漂わせている。
「孤独……、孤独だと思いますわ」
「なぜ?」
「悲しいではありませんか。誰とも触れ合えず、認知されず独り寂しく死にゆくだなんて」
「……そうか」
男もゆっくりと起き上がり、近くのテーブルに置いてあった日記を広げ、ペンを走らせる。その男を横目に、女は窓の外へ目をやり、星たちが煌めく空を見上げる。
「DIO様は、そうは思わないのですか?」
「私か?……私が恐怖するものはジョースターの血統ただ一つ。それ以外はどうでもよい」
「ふふ……そうでしたわね」
「」
、と呼ばれた女は小さく返事をし男の元へ歩みを進める。
テーブルを挟み向かい合わせで座る男と女。何を話すでもなく無言の時間が続いたが、その空気を壊したのは男の方だった。
「私は不安を感じている」
「ジョースターの血筋に、でしょうか」
「そうだ。恐怖を、不安を、克服しなければ世界の頂点には立つことは不可能だ」
「……申し訳ありませんが私には難しすぎて、よく理解できませんわ。でも、DIO様がいうのならそうなのでしょう」
「お前は今、安心を得ているか?覚悟ができているのか?お前のいう【恐怖】は克服できたのか?」
少し困惑気味に男の話を聞きつつ女は首を縦にふる。女は、男に出された質問に今までとは打って変わってハッキリとした口ぶりで答えた。
「ええ。DIO様……、あなた様がいれば私は孤独ではありませんから」
この世で最も恐いもの(DIO)
独りでいることの恐怖は計り知れないもの。